リレー小説  お題 "悪夢"


  その日は、雨が降っていた。
 
 
 
 「じゃ、おやすみ」
 「おやすみなさーい」
 夜。時間はよくわからないが、とにかく夜。
 スラカとニモカはいつも通り挨拶を交わし
 眠りについた。夜に入って振ってきた雨がばたばたと
 窓ガラスをたたく音がする。とても、気味が悪い夜だった。
 
 
 「う…」
 真夜中、スラカは人の声で目を覚ました。
 隣を見ると、ベッドの中でニモカが顔をしかめている。
 いや、しかめているだけならまだしも、あれはもしかして
 泣いているのではないだろうか。
 「うあ、や。いやだぁ」
 どんな夢を見ているのかはわからないが、これはまずい。
 「ニモカ、ニモカ!」
 ぼろぼろと涙で枕を濡らしながら何かに縋るように手を伸ばす
 妹の肩をつかみ、激しく揺する。起こし方としては少々手荒だが
 このうなされ様だ。荒くなっても仕方がない。
 「…っ」
 ばっと、ニモカが目を開ける。手を貸して起こしてやりながら
 肩で息をしている妹に、水の入ったコップを差し出す。
 「スラくん…?」
 起きた自覚がなかったのだろう。涙にぬれた虚ろな目で訊ねてくる妹に
 首だけで頷くと、首筋に妹の腕が回ってきた。そのままわんわんと声を上げて
 泣くニモカの背を、スラカは無言でさすっていた。
 
 
 「で、なんの夢見たんだ」
 さっきとは違い、今度はホットミルクを作ってやった。
 ようやく落ち着いたニモカは、それを飲みながら夢の出来事をぽつぽつと
 話し始めた。
 「あのね、蜘蛛が出てきたの」
 「くもって、あの足があるあれか?」
 こくりと頷くニモカ。ホットミルクを一口飲んでまた話しだす。
 「おっきな蜘蛛をね、手で持って誰かが追いかけてくるの」
 誰かが、と言う事は詳しいことはわからないらしい。
 しかし大きな蜘蛛を素手で持つ人物。スラカは蜘蛛は苦手ではない。
 小さな蜘蛛くらいなら手ではらえるし、一応触れることもできる。
 しかし大きなものになると、持てない事はないが持ちたいとは
 思わない。
 「私は逃げるんだけど、それでも追いかけてくるの」
 つまりはしつこいと。ニモカは蜘蛛が嫌いなのだ。漢字限定だが
 文字を見ただけでも引くくらいの蜘蛛嫌い。夢の中とはいえ
 大きな蜘蛛に追い掛け回されれば、うなされもするだろう。
 「大丈夫だよ、一回起きたからもう出てこないだろう」
 根拠はないけれどそうでも言っておかないと、この妹は朝まで
 起きている。そうなるとさすがに健康に悪い。
 飲み終えたホットミルクのカップをサイドテーブルに置き
 スラカは妹の為に歌を歌い始めた。自分が幼い頃、母が歌ってくれていた
 子守唄。エルフの歌とは違うそれだけれど、自分はこれでよく
 眠っていたから。ゆっくりと髪をすいてやると、そのうちにすやすやと
 規則正しい呼吸が聞こえてくる。スラカはゆっくりと歌をやめ
 自身の寝床へもぐりこんだ。
 
 
 
 安らかに心地よく眠り 育て育て可愛いわが子
 わが子の成長が嬉しくない親はいない
 わが子の成長が楽しみでない親はいない
 眠れ眠れ可愛いわが子 安らかに健やかに育てば
 それほど嬉しいことはない
 
 
 
 
 歌詞即興&適当(まてよ)サブタイトルは スラカさんの子守唄 です。
 今回は、スラ兄弟のみの出演となってしまった…。
 うーん、どこかで出したかったんだけどこれは流れ的に難しかったよ、お兄ちゃん(屍)
 精進します。そしてこの話、私の実体験だったりします。さすがに泣いてはないけどね(苦笑)