青。


 「大丈夫ですかー…?」

 頭上から声がする、と思った。
 現に世界はすべてが横向きで、何故か周りのものが
 自分より大きい。おかしいな、俺はこんなに小さく
 なった覚えはないんだけど。

 「クロス?」

 出るものと思っていた自分の声はかすれていた。
 でも相手には十分聞こえたようで、心配そうな顔が
 覗きこんできた。

 「俺、なんで横になってるの?」

 目は虚ろだし意識もはっきりしているとは言えないが
 それでも一応生きてはいるので、大丈夫だろうと思った。
 しかしクロスは心配そうな顔で信自を見ている。
 片手は、信自が起き上がらないよう肩口へ添えられていた。

 「顔が青かったんですよ」

 しばらくの間のあとに、クロスがぽつりと言った。
 信自が起き上がることはないと思ったのだろう。片手は
 いつの間にか顔にかかる髪をはらっていた。

 「だから、大丈夫かなぁとは思ったんですけどね」

 大丈夫と言い張ったでしょう、あなた。
 あぁ、と思った。思い出した。確かに、今朝の自分の体調は
 絶好調とは言えなかった。鏡に映った顔が青くて、それを見た
 クロス達は、絶好調とはかけ離れていると訂正をしたのだ。

 「あまり、無理はしないで下さいね?」

 心配ですから。そう言いながら、今度は髪を撫ではじめた手を
 そのままにしながら、信自は目を閉じる。
 体調が悪いならそう言えばいいのだと、遠慮などするなとクロスは
 言ってくれている。しかし、今異世界のこの地に着たばかりの信自にとっては
 その言葉に甘えてばかりはいられない。

 「早くこの世界のこと覚えなきゃいけないじゃん」

 そう言えば、上から苦笑した風な気配がした。
 
 「ゆっくりでいいですよ」

 どうせ皆も覚えていないですしね、広すぎて。

 「どこまで空間があるかもわからない所なので、ルスカも
 全部は把握してないんじゃないですかね」
 「なんでそんな所に住んでるんだよ、あんたら」

 思わず目を開けると、クロスはくすくすと笑っていた。
 笑いながら、自分の髪を撫でながら、なんででしょうねぇと
 首をひねっている。その仕草が何故か母親というものを思い出させて
 自分には親なんていないのに、親というものを知らないのに、その暖かさに
 ちょっと泣きたくなってしまった。それをごまかすかのように再び目を閉じる。
 多分、クロスには全部ばれていると思うけど、それならそれでいい。
 このまま眠ってしまおう。


 相変わらず自分の頭を撫でてくれる手と、日陰の下を吹く風が
 とても気持ちよかった。





 メールマガジンで配信中の『時の魔術師』より。
 青、ただ青にするだけじゃぁつまらない。
 だからと言ってこんな風に表現する自分は、やっぱり
 ひねくれものだと思います。