初雪 その日は寒かった。外を見ると窓枠に雪が積もっていた。 「どおりで寒いわけですね」 暖炉に薪を入れようと腰を上げる。何気なく目をやった 窓の外では、アレクたちが元気よく走り回っていた。 「あーあ、マフラーもしないで」 あれでは風邪をひいてしまう。傍にあるマフラーをとり サフィルスは下へと降りていった。 「あ、サフィだ!」 中庭へ出ると、自らの参謀の姿を見つけたアレクが とてとてと走ってきた。 「アレクさま、外に出るのならせめてマフラーくらいは しておかないと…」 外れないように首にマフラーを巻いてやる。これでよし という風にぽんぽんと叩いてやると、アレクは笑って みんなの中に戻っていった。 「風邪ひかなければいいんですけどねぇ」 明日には全員風邪。そうなると、看病するのはサフィルスだ。 仕事と看病の両立は流石に辛いものがある。しかも複数 となればなおさら。 「子供は風の子っていうだろ」 「おや、珍しいですね。あなたまでいるなんて」 「プラチナさまが出ると言われたんだ」 放っておくわけにはいかんだろ。 「プラチナさまは身体が弱いですからねぇ」 「アレクさまが外に引っ張っていったんですよ おぼっちゃん。」 言葉は丁寧だが口調は嫌味以外のなんでもない。 きっとジェイドを睨みつけても本人の目は 中庭で遊ぶ一行に向けられている。 失礼な人ですね、そう言おうとした時。 「また降ってきたな…」 ジェイドの言葉に出かかった言葉が戻っていく。 目線を上に向けるとはらはらと雪が降っていた。 サフィルスは目を細める。雪は嫌いだ。 懐かしいものを思い出させるから。いつかの自分は それが欲しくて欲しくてたまらなかった。それを使って 故郷に帰りたかった。自分をこの地へ落とした、あの場所に。 今となっては帰りたいとは思っていないけれど。 サフィルスは首を一振りして、アレクたちに目を移す。 「ジェイド」 「ん?」 「私たちの居場所はここですよね」 返答はなかった。しばらく無言が続いた。 サフィルスは、馬鹿とかなんとか嫌味とか そんな言葉がくると思っていたのだが 返ってきたのは意外にも優しい言葉だった。