銀杏

 「んー、秋だねぇ」

 メクリタの大通り。少し歩いた所には倉庫。
 そして、両側にイチョウ並木。黄色が目に優しい。

 「いやぁ、綺麗なイチョウだなぁ」
 
 はっはっは、と爽やかな笑みを浮かべている宗秦。
 片手の指先を額にかざす、俗に言う敬礼ポーズ。
 ちなみに、遠くのものを見るときにも使われる。
 
 「…で、生きてる?春夜」
 「これが生きてるように見える?」

 隣を歩くのは、鮮やかなオレンジの髪を腰まで伸ばし
 髪の色合わせたかのような茶色にノースリーブのワンピースに身をつつんだ
 少女。普通にしていればそれなりに可愛らしく見えるその顔も
 げっそりとした表情をうかべている今はとてもそうは見えない。
 原因は、イチョウの木になっている銀杏の実。
 イチョウの葉は、秋の訪れとして人々に楽しまれるが
 実の匂いは悪臭。百歩譲ったとしても『いい匂い』とは
 いえないシロモノだ。
 
 「足は動いてるし、ちゃんと息もしてるみたいだし。
  生きてるようにしか見えないけど?」
 「今すぐ止めたいくらいよ…呼吸」

 そして足は全速全身。早くここから抜け出したい。

 「そんなことしたら死んじゃうじゃん」
 
 ゆっくり行こうよ、ゆっくり。
 
 「そんなことしたらあたし、ほんとに死ぬけど…?」
 「大丈夫大丈夫、このぐらいで春夜が死ぬわけないよ」

 笑顔でぱたぱたと手を振る男に、春夜はこぶしを握り締めた。
 神様、ここでこの男はっ倒しても罰は当たりませんよね?
 むしろ当てるな、当たってたまるかである。

 「あ、でもちょっと顔色悪いかも。大丈夫?」
 
 ああ、やっと気づいてくれたのか。

 「今すぐここから離れていいなら大丈夫…」
 「んー、そうだねぇ。結構溜まったしそろそろいいかな」

 宗秦は、腰に下げている籠の中を覗き込む。
 じゃらりと音がしたその中には、銀杏の実がどっさり。

 「そんなもの、なんに使うのよ」
 「茶碗蒸し。スラカに作ってもらおうと思って」

 それはおいしそう。でも、銀杏の実って食べられるのは
 中身だけのはず…。

 「それ、外側腐らせなきゃいけないんじゃないの?」
 「うん?結構腐ってるの選んできたから、そんなに日数
  かからないと思うよ」
 「…ああ、そう」

 自分の体調不良の原因が、なんとなく分かった気がした。
 そして、できればわかりたくなかった。

 「スラカの反応が楽しみね…」
 「うん、喜んでくれるといいね〜」

 この後、宗秦が持ち帰った箱はルデースの隅へと追いやられた。
 そして匂いが消えるまで近づくものはいなかったのだという。

 とりすぎには気をつけて。


 もう冬なのに何故か秋のお題…。
 さっさと終わらせて、冬にかかりたいですね〜。
 今回は、サードの春夜ちゃんと別アカ宗秦コンビで
 お送りしました(笑)