ココア

 
 ザク、ザク、と音がする。
 断続的に響くそこは、奥の竹薮。たくさんのミラクルたちと
 河童、ブルームバンブーに囲まれて、それらほただひたすらに
 斬り続ける。フィールド自体は狭いのに、やたらと敵の数が多い。
 一匹一匹相手にしていたつもりが、気が付くといつも囲まれている。
 一匹倒せば、また次と沸いて出てくる敵の方々。思わず、どんないじめだ
 と口走るが、そんなことはお構いなし。あちらにとっては、自分たちの縄張りに
 入ってきたものを排除しようとしているだけなのだろう。

 「だからってこの数は…」

 見渡す限り敵ばかり。地面の上には、拾い損ねたアイテムばかり。
 その中の一つであるキャンディをなめながら、武器を構える。
 吐く息が白い。手もかじかんでいる。…寒い。そう思った矢先。
 
 『寒さで集中力が削られます』

 やかましい…。その通りなだけに腹立たしい。
 寒い。だからこそ、早く片付けてしまわなければこちらがもたない。 
 この数ならば、一匹ずつ相手にするよりまとめてダメージを与えた方が早い。
 範囲系のスキルといえば、自分はあれしか使えない…。

 「散花舞!」 
 
 剣が手から離れないよう、しっかりと握る。小さく息を吐き、思いっきり
 剣を振るう。痛みに叫ぶ敵の攻撃をかわし、第二打撃目を振った。
 
   

 「ふぅ…」
 
 敵のご一行を撃破した後、ひたすら藪の中を走りぬけ
 今は森の小道で一休み。

 「依頼とはいえ、毎度これはきついなぁ…」

 そう、寒い中凍えそうになりながら敵の団体の中に突っ込んでいったのは
 育て依頼を受けたペットのため。ペットは特殊な環境でしか育たないため
 並みの人間では育てることができない。膝の上でゴロゴロと喉を鳴らす猫
 をなでながら、くしゃみを一つ。

 「寒い…」

 運動すると汗をかく。汗をかくと身体が冷える。モンスターとの戦闘も
 立派な運動である。多数を相手にすれば、汗をかくのは当然。そのまま
 寒いところで休んでいれば、身体が冷えるのは当然。ガタガタと身体をふるわせた
 イスピンの頬に、温かいものが当てられる。

 「何やってんだ、お前」

 横を向けば、茶色いコート。上を向けば、眼鏡面。

 「…暖かそうだね、そのコート」
 「やらんぞ…」

 ケチと、鼻をすすると、先ほど押し付けられたものが今度は手の中にふってきた。
 見てみると温かいココア。まさに天からの贈り物。いや、この眼鏡に貰ったものを
 天からのとめいを打つのは、天に失礼だろう。缶をあけると、甘い匂いが漂ってくる。
 一口含むと、甘さと温かさが身体の心までしみこんだ。
 
 「これ買ってきてくれたの?マキシミン」

 横を見れば同じようにイスピンの隣に座り、ココアを飲んでるマキシミンの姿がある。
 
 「ありがとう」

 そういうと、うるせえと一言返ってきた。
 素直じゃないなぁと呟きながら上を向くと、ちらほらと雪が待っていた。




 君にもらったココアは、おいしかった。