「ねぇ、スラくん。古いものない?」
 
 バタバタと足音をさせて帰ってきたかと思えばこの言葉。
 バタバタ、というのはニモカとスラカの日常だが、
 たまにこんなおまけ言葉もついてくる。
 
 「は…?」
 
 こんな時のスラカの反応はだいたい同じ。
 ただ反応時の言葉が、え?か、は?か、へ?のどれかなだけ
 である。このことから、スラカのボギャブラリーのなさがうかがえる。
 ちなみに本日の反応は上の通り。今回は、ニモカの隣にグリジアがいるため
 反応もいつもの2割増し。
 
 「なんだって?」
 
 珍しく訊き返したりもする。
 
 「だから、古いものない?」
 「古いもの…?」
 
 更に訊き返し。よほど不意をつかれたようだ。
 
 「今ね、ニモカちゃんと古いものの話してたの!」
 「グリちゃんとこには色々あるみたいだから、家には何か
  ないかなぁって」
 「…なるほど」
 
 2人の説明を聞き、やっと合点がいったと頷くスラカ。
 つまり、友達に影響されて同じようなものが自分の家にもないものかと
 スラカに尋ねにきたのである。グリジアのところにはコフィンがいる。
 しっかり物のコフィンのことだ、不用意に物を捨てる、ということをしないのだろう。
 
 「古いものねぇ…」
 
 顎に手を当て考えてみる。そしてあたりを見回してみる。
 
 「あるな」
 
 そのとたん、ニモカとグリジアの顔が輝いた。
 そんな2人を微笑ましく思いながら、とりあえず台所からリビングに連れて行く。
 夕食用に作っていたスープをカップにつぎ、それぞれに飲ませながら
 スラカは話しはじめた。
 
 「俺がまだニモカと出会ってない頃かな…」
 
 
 スラカは昔、母親と2人で暮らしていた。エルフだったという父親は
 スラカが生まれると家を出て行き、それっきり行方知れずになった。
 母親は母親でロクに働きもせず、スラカはいつもお腹をすかせていたことしか
 覚えていない。そんな母親でもスラカにとってはその時の唯一の肉親だったから
 病気になった時には一生懸命看病したし、死んだときには泣きもした。
 
 「それでも、やっぱり悲しくてさ。そんな時、露店でラジオを見つけたんだ」
 
 その当時は露店の物もそこまで高くはなく、ギリギリの金額ではあったが
 スラカにも買える値段だった。
 
 「1人ってのが寂しくってね、音が欲しかったんだ」
 
 母が死に、ガランとした家。働きはしなかったが家事はちゃんとこなしていた母。
 スラカが仕事から戻ると、温かい料理で迎えてくれた母。鍋の煮える音も、粗末だったけど
 暖かい料理も、優しい母ももういない。静まり返ったその空間に、何か音が欲しかった。
 こんなに静かでは、とてもやっていけそうになかったから。
 
 「……」
 
 話を聞いた後の2人は、黙っていた。
 返す言葉が見つからなかったからだ。特に、ニモカにとっては他人事ではない。
 血は繋がっていないものの、兄の母親と言う事は自分にとっても母親同然の存在なのだから。
 
 「…ラジオは?今もあるの?」
 
 おそるおそるといった感じでの質問に、スラカは静かに首を振った。
 
 「ないよ」
 
 どうして?と首をかしげると、手のひらがぽんと頭の上に置かれる。
 
 「だって、今はニモカがいるだろ?」
 
 ああ、そういうことか。と思った。兄はあまり人と関わったりはしないけど
 人が嫌いなわけじゃない。騒いでいるのが嫌なわけじゃない。むしろ好きなんだ。
 スラカを見ると、グリジアに自分はどうなんだと迫られている真っ最中。
 困りながらも、ちゃんと返している兄が居た。それを見て、兄への心配が少しだけ
 はれたニモカだった。
 
 
 「あのね、ぺくたん」
 あの後こっそり家を抜け出し、家の裏で薪割りを手伝っていたペックの所に
 きたニモカ。
 「いい事考えたんだけど、協力してもらえないかな?」
 
 このオテンバ少女が何を考えたかはお楽しみ。
 
 
 
 
 ひーっ!遅れて申し訳ありませぬー!!
 ってことで、古びたラジオをお題に書かせていただきました。
 なんか、続くっぽくなっちゃったー。そして、次のお題てーしゅつ!
  
 さぁ、パーティーを始めよう。
 
 終わり方とこのお題、私がぺくたんにこめた密かなメッセージです(笑)
 気づいてくっれるっかなぁ♪