さかさまの時間 最近、アイツが夜中に部屋を出て行く。そして朝方に疲れて戻ってくる。 アイツのことなんて気にしちゃいない。どこで何をしていようとあいつの勝手で 俺の知っちゃことじゃない。そのつもりだった。でも、気になるのだ。迷惑なのだ。 本人は気遣っているつもりなのだろうが筒抜けなのだ。夜中にガサガサと音を立てられると 目が覚めるのだ。そして朝まで眠れないのだ。だから、これは自分の為で、アイツが心配だかとか そんな理由ではないのだ。 夜、イスピンがこっそりと部屋を出て行く。相部屋のマキシミンはぐっすりと眠っており イスピンの立てる物音で起きる様子もない。イスピンは、そのままゆっくりとドアを開け 部屋から出て行った。足音が遠ざかる。もう少しで足音が聞こえなくなる、というところで むくりと起き上がった影があった。マキシミンである。マキシミンは手早く服を着ると部屋を出 イスピンの後を追いかけ始めた。 「暑いなぁ…」 昼間の暑さは、夜になっていくらか軽減されるが、じめじめ感はなくなるものではない。 特にここ、ナルビクは海という水場が近いだけに、湿気倍増、じめじめ感も倍増である。 暑さが緩和されるのはいいことだが、湿度が変わらないのであれば、暑さもあまりかわらない。 街単位でなんとかなつ除湿機がほしいところである。 「ま、さっさとすませちゃえばいいか」 寝ていれば、多少の暑さにも湿気にも気づかない。寝たもの勝ちである。 イスピンは目の前のはしごに足をかける。そのまま、トントンと音を立て、段差を上っていく。 「おい」 少々上ったところで、下から声がかかった。上ばかりみていて、下に人がいるのに気づかなかった。 バランスが崩れる。はしごが揺れて、体勢を崩す。手が離れて身体が宙に浮いた。そのまま落下。 何に。普通は、地面にと答えるのだが、この場合はマキシミンの上に。 「いっ…お前、なんでよりによって俺の上に落ちてくるんだ!」 「だって、君がいきなり声かけるからだろ!」 いきなりじゃなきゃ、あんなヘマしないよ、とイスピンは頬を膨らませる。 男のくせに、こういうところは女っぽいのはなぜだろう、とマキシミンはいつも思う。 それは、イスピンが本当に女だからなのだが、本人はそれがわかっていない。ただどこかおかしいと 首をひねるばかりである。 「で、何してたんだ?」 自分の上からどいてもらい、服の埃をはたきながら問いかける。 「煙突掃除」 チムチムチェリーか。思わず突っ込みそうになるのをこらえた。 私は煙突掃除やさん、ってか。中々笑わせてくれる。 「で、なんで夜中にやってるんだ」 依頼するとはいえ、真夜中にごそごそと音がすると気になって眠れない人間も 出てくるだろう。普通は、昼に依頼するものである。 「自分は絶対起きないから、夜でも大丈夫だって。むしろ、昼間にやられたほうが 気になるか、是非とも夜中にお願いするって」 自分とまったく逆の思考の人間か。世の中には色々な人間がいるものだ。 というか、マキシミンとしては、依頼があったからといってどうして夜中に煙突掃除をやっているのか、ではなく どうしてそんな依頼を受けたのか、根っこの部分が聞きたいのだ。もう一度、砕いて訊いてやると イスピンは少し答えにくそうにした。が、そんなのかまうもんか、と訊き出す。俺の安眠を某がしたんだ 理由くらいは聞かせてもらわないと納得がいかない。 「…誕生日」 ぼそりと、イスピンが答えた。マキシミン表情は、怪訝なものになる。誕生日が一体どうしたのか。 「君、もうすぐ誕生日だろ。プレゼントくらい渡したかったんだ」 せっかくのペアだし。と、語尾が小さくなる。なんだ、そんなことかとマキシミンは思った。 そんなこと、気にしなくていい。 「俺は、プレゼントがほしいなんていった覚えはない。というか、勝手にがさごそされて 夜中に抜け出されると俺が迷惑だ」 何かあったら危ないから、なんていってやらない。自分の知らないところで何をしていたか 気になっていた、なんて言ってやらない。 何か言い返そうとしているイスピンにかまわずさっさと背を向け、帰るぞ、と声をかけた。 後ろから、待ってよと声がする。煙突掃除の道具は持参だったのか、ついでに他の音もする。 プレゼントよりも、イスピンが傍にいるのが一番いい、なんて思っても言ってやらない。 マキ誕記念。なにこの終わり方。依頼はいいのか?と自分で書いてて突っ込みそうになったのは 内緒。眠気と戦いながら書いたので、何かおかしなところがあったら失礼。 本音を言うなら チムチムチェリーか が書きたかっただけ。