・神殿・
　
　メクリタの街には神殿がある。
　それは、遥か昔にこの世界を作った神が一人の女神に
　この地を託した。女神のおかげで人々はモンスター達に
　襲われることもなく、今日まで過ごせた。人々は女神に
　大変感謝し、一つの街に神殿を建て、祭ってきたのである。
　メクリタに神殿があるのは、女神が降り立った地とされているから。
　建物はメクリタの隅に建っていて、その大部分が石造り。
　奥に行くと大きな女神像あり、これもまた石で出来ている。
　女神像の周りには天使の像が女神像を取り囲むように置かれていて
　それぞれの手に女神の加護をうけたとされる3つの調度品が握られている。
　右の天使はベルト、左の天使はネックレス、そして真ん中の天使は指輪。
　3人の天使はそれぞれ愛・親和・知性を司っており、調度品にも同じものが
　宿っているという。女神像は6枚の羽を天高く広げ、右腕を天に、左腕を
　地に向けている。天に掲げられた右腕は天上にいる神からの『幸せ』を
　地に向けられた左腕はその幸せを地上に生きるすべてのものに与えている
　のだそうだ。その女神像を、無言で見つめている一人の青年がいた。
　この神殿の護衛を任されている隊の隊長、アックトムである。
　騎士団員の証である隊服を身に付け、とがった耳はエルフのそれ。
　像を見つめている青年の顔には苦渋の表情だけが浮かんでいる。
　原因は、おそらくこの神殿が襲われた事件であろう。
　突然付近に生息するモンスターが挙って神殿を襲い、調度品を
　持ち去ってしまったのだ。一人の少年の助けによってなんとか
　取り戻されたが、神殿を警護するアックトムとしては自分のミスで
　調度品が持ち去られてしまったことに苦い想いを隠せない。
　「俺があの時、警備を怠っていなければ…」
　自分のせいなのだ。自分のせいで神殿が襲われ、調度品が盗まれた。
　拳を握り締める。奥歯をかみ締めると、ぎりりと嫌な音がした。
　「そんなに自分を責めるものじゃない」
　彼の背後から声が飛んでくる。振り向くと、レフティードが立っていた。
　レフティードはメクリタ騎士団長。彼を神殿警護の隊長に任じたのも
　この男である。
　「自分を責めてなんになる」
　余計に虚しくなるだけだろう？と、レフティードは首をかしげた。
　「今は己の過ちを悔いることよりも、あの事件に対して今後
　どのように対応していくかが大事だろう？」
　「隊長…」
　「この神殿警護の隊長はお前だ。隊長のお前がそんなじゃ
　部下はどうする。現に、数名が俺のところにやってきたぞ？
　どうすればいいのか、ってな」
　何も言えずにただ己の騎士団長を見ているアックトムに
　レフティードは苦笑した。
　「人の上に立つ人間は、いつでも堂々としているものだ。
　部下に不安を与えるな。何かあれば、俺を頼って来い」

　責任者ってのは、その為にいるんだよ。

　「…そうですね」

　じゃあ、次からは遠慮なく頼らせてもらうことにします。

　そう言って、警護隊長は少しだけ笑った。
　

　願わくば、この先もずっとあなたの下で働けますように。
　俺はあなたにどこまでもついていきます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　fin...