暗闇の中で声がする。 
  それは、ボクの大好きな人の声…

 
 「すみません、うちのキルカが大変なんです!」
 トレセドへ戻ったスラカは、すぐさまトレーナーの所へ駆け込んだ。
 スラカの慌てぶりに、トレーナーのお兄さんも何事かといった様子である。
 「どうしたんです?」
 「8Fでスラのブレスくらっちゃって、それっきり目覚まさないんです!」
 「ちょっと見せてください」
 そういって、キルカを受け取ると脈をとりはじめる。
 「休眠状態になってるだけですね。回復しますので
  ゆっくり休ませてあげて下さい」
 「わかりました。大したことなくてよかったわ…」
 ほぅっと気息をつく。安心したのか、その場に座り込んでしまった。
 そんな姿を見て、お兄さんはクスリと笑った。
 「可愛いんですね、この子のこと」
 「可愛いですね。育てて混ぜて、やっと出来た子だし」
 「あなたみたいな人がマスターで、この子も幸せでしょうね。
  はい、終わりましたよ」
 お礼をいって、お兄さんからキルカを受け取る。
 痛い想いをさせてごめんよ、と心の中で謝りながら
 柔らかい毛並みをゆっくりとなでてやった。
 キルカが目を覚ますまで…

 暖かさで目が覚めた。ここはどこだろう。
 確かボクは、ロゼッタで気を失ったはずなのに…。
 「キルカ、目覚めた?」
 目の前にマスターの顔があって驚いた。
 ボクは、マスターの腕の中にいたのだ。
 「ごめんな…」
 何がどうなっているかさっぱりわからないボクに
 マスターが謝ってきた。その顔は今にも泣きそうで
 見ているこっちまで泣きたくなってくる。
 「俺のせいで、キルカをこんな目にあわせちゃって…」
  痛かったろ?とボクの身体をなでてくれる。
 そんなに悲しそうな顔をしないで?
 あなたのせいなんかじゃないんだから。
 言葉で伝えられない代わりに、彼の顔をぺろぺろとなめる。
 「くすぐったいよ…」
 笑ってくれた。まだ悲しそうな表情は残っているけど
 でもその顔の方が全然いい。ボクは大丈夫、だから
 そんなに自分を責めないで下さい。
 「ありがとうな」
 マスターがボクをぎゅっと抱きしめた。
 そのぬくもりが心地よくて、ボクはゆっくりと目を閉じた。

 その後レベルの上がったボクは、マスターのお友達である
 ニモカちゃんに預けられることになった。ニモカちゃんは優しかったし
 他の皆といるのも楽しかったけど、やっぱりマスターの所が一番いい。
 戻れたときは、本当に嬉しかった。ボクのマスターはこの人だけだから
 この人の傍が一番好きなんだ。


 ボクはルデース生まれのハイトーラ。
 マスターはスラカ。ボクの大好きな人。
 ボクに名前をくれたのは美月姫さん。
 とっても素敵な名前を付けてくれた人。
 ボクが生まれるのに必要なアイテムをくれたのは
 ハイスさん。感謝してもしきれない人。

 ボクは、ハイトーラ。
 ハイトーラのキルカです。

    
                 fin...


  back