氷の線路 4


　「で、あんなところに突っ立ってたんだ」  

  投げられた質問に、出された紅茶を飲みながらコクリと頷く。
　今私がいるのはさっきまでいた線路の上ではなく、汽車の中。
　歩いて駅までいこうかと思っていたら、やってきた汽車が拾ってくれたのだ。
　どうやらあの先には駅はないらしい。あのまま歩いていたらばたんきゅぅだったのだ。
　感謝感謝。目の前にいるのは、私よりも下であろう年齢の少年。12、3歳くらいかな。
　こげ茶の髪に、翡翠色の綺麗な瞳をもつ男の子。背丈は私の胸くらいまで。
　成長期っぽそうだから、私なんて近いうちに軽く抜かれるだろうな。
　格好は、なんだかどこかのお城の伯爵かっていう感じの長いマント。
　中身は…あ、普通に正装だ。マントの変わりにスーツでも羽織ってれば
　それなりのレストランなんかに行けそうだなー。

　「ところでさ、あなたの名前は？」

　拾ってもらってお茶出されて事情聞かれて。私の話ばかりしていたのだ。
　相手の名前も知らないのでは、お礼もいえない。感謝する相手の名前は覚えておかなきゃだしね！
　
　「俺？」

　お菓子を盛り付けていた少年は振り返り。

　「アウルっていうんだ」

　そう言って、にっこり笑った。か、かわいい…！

　「そっか、アリス君って言うんだ。私、いさみ。平仮名でいさみって言うんだ
　　よろしくね。」

　私も笑って答える。…が、その瞬間、空気が凍った気がした。
　私、なんかいけないこと言った…？

　「おねえさん…」

　アリス君が、がっくりと肩を落とす。ちょっとだけオーラが怖い。

　「俺の名前はアリスじゃなくて、ア・ウ・ル。俺、女の子じゃないからね？」

　腕を組んでむぅっと膨れる。なこりゃまたかわいい構図だけれど
　名前を間違えたのはこっちが悪い。

　「ご、ごめんね。アウル君ね。」

　あわてて謝る。恩人でなくとも、人様の名前を間違えるなんて、なんて失礼を
　してしまったんだろうか。必死に謝っていると、そんなに謝らなくていいよ、似てるし。
　と苦笑されて、ほっと息をつく。初対面で怒らせたのかと思っちゃった。
　安心して目の前に置かれたお菓子に手を伸ばそうとすると、アウル君がじっとこっちを
　見つめている。そんなに見つめて…俺に触ると火傷するぜ、とか言ってみたいけど
　そんな雰囲気じゃない。

　「な、なに…？」
　「おねえさんって、天然？」
　「へ…？」
　
　目が点になった…気がした。でも、気分は目が点。天然…私、天然なの？
　アウル君はなおも続ける。

　「俺の名前間違えたのもそうだし、この汽車の明かりを大きいホタルか何かだと
　　思ったんでしょ？」

　ホタルか何かって、そのまんまです…。言い返す言葉もない。

　「やっぱり天然だね」

　にっこり満面の笑み。笑顔だけならもらいたかったけど、その言葉は余計かなー…。
　というか、小学生かそこらの子に天然って言われる高校生ってなんなのだろうか。
　立場がない私だった。…最近の子は早く大人になるんだね。




　そんな事はないと思うけどね、いさみちゃん。
　・主人公データ・
　滝野　いさみ
　ボケ。コイツといれば、少々ボケる人間でも突っ込みにまわらざるえないくらいボケ。
　アウルいわく『天然』。好きなものは金つば、嫌いなものは宇治金時。小豆と白玉を
　一緒に食べるのは、おしるこだけで十分らしい。
　

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