ルデース、倉庫前。街灯に照らされここら一帯は明るいが
 時刻は夜。光の届かない場所には、漆を塗りこめたような
 闇が広がっている。

 「ニモさん、大丈夫?」
 「…もう少し」

 座り込んでいるのは、髪、服とともに紺に身をつつんだ少女。
 今、スラカ宅で騒がれている張本人である。

 「困ったなぁ…」

 傍で頭をかいている少年。紫色の髪にオリーブ色のTシャツという
 シンプルな格好をしてる。名前をペックと言うのだが、この少年こそ
 ニモカが今晩の年越しパーティーに呼んだ人物であった。 

 「もう少し行ったら街灯あるんだけど…そこまで無理かな?」
 「うー」
 「無理そうだね…」

 少女の頭に手をのせ、よしよしと慰めるように撫でてやる。
 ニモカは、暗いところが苦手なのだ。暗いところにくると
 どうしても足が動かなくなってしまう。しかしこのままでは
 スラカのところへ行くなど到底無理な話。さて、どうしよう…。
 撫でる片手は相変わらずに、目を上に向け考える。何かないかと考え
 ふと思いつくことがあった。…あ、そうだ。
  
 「ねぇ、ニモさん。オレと手繋いだら歩ける?」 
 「へ?」
 「オレと手繋いでさ、スラカさんとこまで行こうよ」

 それなら怖くないでしょ?差し出された手と差し出した
 本人の顔を交互に見ている目の前の少女ににっこりと
 笑いかける。それをみて安心したのか、ニモカも微笑むと
 ペックの手を取り立ち上がった。

 「で、どのへんだって言ってたっけ?」
 「んと、ルデの端の方。トレーナーの向こう側に
  家があるでしょ?そこだって言ってた」

 暗い夜道を2人で歩く。ニモカは時折闇を怖がる素振りを
 見せるものの、歩調は先ほどよりしっかりしていた。

 「あぁ、なるほど。確かに騒ぐにはぴったりかも」

 ざりざりと土を踏む音だけが響く。目的地まではあと少し。



  
  「おやお帰り」
 
 ニモカとペックの目的地では、収穫なしで帰ってきた
 美月姫がいた。

 「見つかった?」

 鰤の刺身盛りを片手に尋ねるスラカに、暗い顔で首を横に振る。
 
 「こんなのしか見つからなかった」

 その指の先には新たな客人が2人。1人は、明るいライトグリーン
 を身にまとった少女…ミレニャ。そしてもう1人は…。

 「オレら、もう人扱いすらされないわけ…?」

 ハイスだった。その手の中には新鮮そうな…否、新鮮な鰤がある。
 
 「ハイちゃん、それ」
 「ん?あぁ、お土産。手ぶらってのもなんだったし」

 スラカは元旦用の鰤をゲットした。刺身にすれば、きっとこの人数が
 平らげてくれるだろう。

 「スラカー」
 「ん?」
 「ニモカは?」
 「んー、姫たんが探しに行ってたんだけどね」

 そこで君たちが見つかったのよ。

 「もー、ニモカたん連れてくるはずだったのに。
  ハイスなんて放っておいてもいずれつくでしょ?」
 
 いや、そこで疑問詞を使われても…。

 「てか、オレって何…?」
 「ニモカたん大丈夫かなぁ」

 聞いちゃいねぇ…。

 「まぁまぁ、いつものこといつものこと」
 「だな」

 オロオロしている美月姫と、落ち込んでいるハイス。
 スラカの言うことに頷いているミレニャの3人をリビングに
 案内する。

 「…あれ?」
 「どした?」
 「いや、今なんか聞こえたような…」

 なんだろうと玄関の方へ向かう。そしてドアを開けようとノブに
 手をかける。が…

 「おわ!」

 ドアの方が先にあいた。つんのめるも、なんとか衝撃をやり過ごし
 倒れることだけは避けた。

 「あれ?スラ君」

 開いたドアの向こうには、ニモカが立っていた。

 
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